モドル
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犬笛 -inuvue-

私の夢の話を聞いて下さい。
 
 
 
それは物心もつくかつかないかと言う時、
今ではその切っ掛けすらも覚えていない程の私に取っての過去に、
私はそのものの存在を知りました。
 
当時、自力で本を読むだとかテレビの電源を入れるだとかすら出来なかった私に取って
それは恰も魔法の道具、の様に思えたのです。
 
それが、犬笛でした。
 
 
自分を中心にしか物事を考えない子供には、
聞こえない音なんてものがこの世に存在する事自体が信じ難い事で、
それでも、それが欲しくて、犬や蝙蝠を呼んでみたくて堪らなかったのです。
 
 
しかし、当時は身近に犬も居なかったし、
そもそもそれが何処に売っているものか、具体的にどういったものなのかも解らなかった。
 
そんなに凄いものなのだから、子供が気安く欲しがれるものでも無いのだ、とも思いました。
恐らく、名前だけ知っている楽器等と一緒で、何十万もするのだと。
 
 
 
諦めるでも無く、それは自然に、
 
「大人になったら犬笛を探す旅に出よう、それで犬を飼って呼ぶんだ」

と言う想いに変わりました。
 
 
 
 
それから、犬笛は私の永遠の憧れとなったのです。
 
 
 
時々それを思い出し、どうにかして買えないかと考え、
それでも解らずに終わる、事を幾度と無く繰り返し、

いつしかその想いは遠いものになっていました。
 
 
 
 
しかし、
 
物理的なもので、今一番何が欲しい、と聞かれて真っ先に出て来るのは矢張りそれで、
 
忘れる事は、出来ませんでした。
 
 
 
 
今、家に犬が居ます。
 
願いの半分は、叶ったのです。
 
 
 
 
 
 
 
ある日、ネット通販で犬の餌を注文していた私は、不意にその事を思い出しました。
 
 
もしやと思い、ブラウザの検索バーに「犬笛」と打ち込み、ENTERキーを押しました。
 
 
 
 
 
あった。
 
 
 
 
 
税込送料込 2,980円ですって。
 
 
 
 
 
 
 
…私の積年の夢は、ネット通販で犬の餌(16kg)よりも安く売っていました。
 
 

ネット通販、べんり!
  
 
 
<完>